概要

  • システム思考を可視化のツールにはストック・フロー図やループ図,ネットワーク図(コンセプトマップ,ウェビングマップ)など様々な図が用いられます。
  • システム思考を重視するドイツの地理教育では,「関係構造図」と呼ばれる手法を用いています。
  • 関係構造図は他のツールと比較して,より地理的な見方・考え方(人間と自然の関係性)を反映したものといえます。

「やってみようかな」という方に向けて


・(作成中)

地理教育で活用する際の特徴


  • 地球環境問題や地域的な課題を,「自然と人間の関係性」という地理的な見方・考え方から捉えるツールです
  • 様々な諸事象をまとめる際に,生徒たちに「地理的なフォーマット」を提供するものです(コンセプトマップだと全員バラバラになる).
  • 「地理的なフォーマット」を用いることで,現代世界における非常に複雑な「自然と人間の関係性」について,別の生徒とともにイメージを共有しながら一緒に考え,解決策をさぐることができます。

より詳細にいえば・・・

  • 「問題は複雑で解決は難しい」というオープンエンドに終わらせないためのツールにもなる → 問題の構造(本質)が可視化される
    • 場合によっては,氷山モデルの構造,さらにはメンタルモデルまでを扱いうる
  • 「砂漠に植物を植える」「砂漠に井戸を掘る」という解決策(対処療法)が,持続可能な解決策かどうかを生徒に考えさせる
    • 「昨日の解決策が今日の問題を生む」にならない解決策を考えることはESDの基本
  • 系統学習をつなげる意味合いもある
    • 系統地理(地形,気候など)を学んでもそれらが活用されるシーンは少ないが,関係構造図では各圏・領域がそれぞれ系統地理の単位に近い構成になっている。
    • 系統地理の知識を活かしながら考えることで,生徒も「なぜ系統地理を学んだのか」という理由を理解できる
    • (県・領域にもそれぞれの時間軸がある:地形は数億年~数千年,気候は数千年~数十年,植生は数十年~数百年,技術は数年など)
      • 解決策にはそれぞれの圏・領域が順応できるだけの時間が必要である:「急激な解決策は破壊をもたらす」

関係構造図とは。


「自然と人間の関係性」という地理的な見方・考え方に即した区分:

 自然圏(上部4圏)と人間領域(下部5領域)に区分して整理することができる

 

1.問題の認識

 

・問題を生み出す「構造」(要素の関係性)を可視化する

・要素の「つながり」を辿りながら,問題発生の「プロセス」を明らかにする(問題のプロセスを認識することは解決の第一歩)

 ・要素の「つながり」を辿ると,問題全体における各要素の役割(「機能」)を明らかにできる(どの要素を改善(介入)したら問題は解決に向かうかを判断する際に役立つ)

 

2.問題の解決策(調整案)の考案

 

・そのまま放置するとどうなるのか?(非介入シナリオ)

・最悪なシナリオだけは避ける。

・急激な変化は,大きな影響を引き起こす可能性がある(※圏・領域ごとに適した時間軸があるため)

・順応的な解決策を考える(問題解決のために、「ずらす」べき関係性を可視化し考える※順応的ガバナンス)

 ずらす・・・問題の組み換え(参考キーワード「順応的ガバナンス」宮内泰介

 

<漏れなく重複なく>

 MECE (mutually exclusive and collectively exhaustive)で全体集合を捉えやすくしている

 

ダウンロード
関係構造図.pptx
Microsoft Power Point プレゼンテーション 2.9 MB

授業実践の事例(一部)


その他のモデルツールの違い


ウェビングマップ,コンセプトマップ,ネットワーク図,チャート図

 

利点

・アイデアを拡散させるようなブレインストーミングに向いている

・物事のつながりが意識される

 

課題

「地理の見方・考え方」を育むか不明

表現ツールではあるが,思考ツールとして活用することが困難

・要素が平板かつランダムに配置されるため,要素の重要度が読み取りにくい

・異なる2つの課題をモデル化した場合,共通の基準や枠組みがないため比較が困難

関係構造図 (英:network of interrelations, 独:Beziehungsgeflecht)

ドイツの地球環境変動諮問委員会(BWGU)は1990年代,地球環境変動に対する戦略構築論としてシンドロームアプローチ(Syndrome Approach)を開発し,複雑な事象を整理するために関係構造図を用いました。

 

この関係構造図は,持続可能な開発を考える上で必要な「自然・経済・社会」のバランスをより精緻に考えるためのツールであり,地理教育でいうところの「自然と人間の関係」を可視化するツールでもあります。そのため,本研究会の実践でも活用実践例があります。

 

なお,ドイツの地理の教科書にも登場し,授業でも用いられています。ESDとしても取り上げられています(Transfer 21プロジェクト)。
英語では,Cube(キューブ)とも呼ばれます。

リンク


ドイツ環境変動諮問委員会
ドイツ環境変動諮問委員会

(余談)

受験勉強の時期に、世界地誌の内容を自分なりにまとめるにあたり気候や大地形から整理をはじめ、水文環境から人の集住や人口を考え、植生から農業や産業を考え、それでは説明できないものを政治や技術で補いながら、ストーリーとして暗記した。聞いたところでは,多くの人がそう勉強していた。大学に入るとこれは環境決定論というダメな考え方らしいことがわかった。…しかししばらく地理教育を勉強してみると、これは環境決定論や可能論ではなく、システム論であることがわかった。