第49回研究会


(未定稿)

トーマス ホフマン(ドイツバーデンビュルテンベルク州ギムナジウム上級教員)

「厳密な課題解決型学習を」


解決策をまず見せる

地球的諸課題に対する厳密な課題解決型学習(strictly solution-oriented approach)について紹介する。

まずはじめにマーティン・ルーサーキングのスピーチの出だしを事例に考えてみたいことがある。よく知られているように“ I have a dream”(私には夢がある)から始まる。これに対して、もし仮に I have a nightmare (私は悪夢を見ている)から始まったら、聴いている聴衆や皆さんはどう感じるだろうか。学校の先生ならわかってもらえると思うが、言葉は非常に大きな力を持っており、聴く人に対して与える影響は小さくない。特に、ネガティブな言葉は、ポジティブな言葉の三倍影響力があるとも言われる。

こうしたことは地理教育の現場においても同様である。つまり、地理で扱う内容や言葉が、生徒にどのような印象を与えているかに注意を払う必要があるのだ。


教科書のもつ「言葉の力」

ここでは例として地理教科書の記述をもとに考えてみよう。例えばアメリカの教科書では、地球的諸課題についての記述があり、その上で「あなたはこの問題に対してどう取り組みますか?」という投げかけで終わっている。こうした傾向はインド、ドイツ、日本でも同様であり、特に解決策についていえば、触れられてはいるものの非常に僅かでありしかも具体的な書き方はなされていない。また、生徒が考えた答えは「◯◯するべき」というべき論になりがちで、倫理やマナーの問題だとということになる。また、具体的なアクションに向かうケースも多くない。地球的諸課題とは何かを認識するという意味で課題志向型学習といえる。これは解決志向型(Solution-oriented)ではない。


すごい解決のアイデア

解決志向型学習はどう構想したら良いのだろうか?

生徒たちは地球の課題、国の課題、地域の課題と課題まみれになっている。しかしこうした課題から目を背けることはできない。向き合わなければならない。そこで、解決策から話を展開するのはどうだろうか?ここでいう解決策とは、問題を解決に向かわせるような素晴らしいアイデアであり、生徒の興味と関心を呼び起こすものである。生徒が「すごい!」と思うような事例を取り上げる。どうしてこんなことができるのだろうか?」「できるなら自分も参加してみたい」と思えるような優れたアイデアや若者の取り組みが適している。ただ、できれば地球的諸課題とも繋がるようなものがより適している。グレタトゥーンベリが最近では話題になっている。

その上で、「この人たちが取り組んでいる問題はどんなものなんだろうか?」、「このアイデアがうまくいくための仕組みはなんなんだろうか?」といった点に移動していく。気候変動についてはパリ協定がある。その仕組みを考えていく。


レディネス

ここまで来て初めて、地球的諸課題についての認識を育む準備ができたといえるのではないだろうか?

その時、私たちの暮らしが持続可能ではない生活になっていることを考えていく。エコフットプリントはどれくらい地球の生態系に負担をかけているかを示したものだが、これに対して、どれくらい取り組んでいるかを示したエコハンドプリントがある。こちらの方がよっぽどポジティブだ。また生徒によっては地球の限界を図化したプラネタリーバウンダリーも良い。ヨハンロックストロームはSDGsの階層性をわかりやすくしましたウェディングケーキも示している。


見晴らしの良い学習

以上のように、魅力的な解決策をきっかけとしながら学習を進めるのが課題解決志向の学習といえる。これまでの課題志向型の学習が山積する問題の中で見通しが立た図に「複雑で難しいな」(◯◯、、、)と途方にくれるのに対して、課題解決志向の学習は見晴らしの良いスカイラインを歩くようなものである。眼前には素晴らしい解決策が見え、その眼下には課題がある。

素晴らしい解決策によってモチベートされ時に活動に参加するといった解決志向学習の経験を通じて、見通しを示すこと、予測思考、批判的思考、システム思考を育むことができる。その一方でデメリットもある。

餌をぶら下げるようなやり方に批判が上がるかもしれない。また、科学技術の過信、現実の問題の切実さの軽視、不注意で軽薄な行動を招く恐れもある。こうした点に注意を払いつつも、総じて言えば、より良い方法だと考えている。


明るい未来

私たちが子供だった時、未来都市の想像図を目にした人も多いと思う。車だけが走る道や自動運転の車、小さなテレビ越しに道端で話をする人々といった光景は、いまやすでに現実となっている。いまの私たちの生活自体、かつて誰かが考えた解決策の塊といえる。複雑で見通せないと言われる現代だからこそ、生徒にも未来を想像する楽しさを。